公共図書館での医療・健康情報サービスのニュースを読んで医学図書館員が思うこと

一般市民へ医療・健康情報を提供するサービスとして、公共図書館が医療情報コーナーを設けていることなんかがニュースになるけど、私には違和感があった。本当に利用者がほしい情報を届けられているのだろうかと。

アメリカでは多額の税金を投入して、世界最高の医学文献データベースであるMEDLINE及びPubMedを維持している。医学情報のインフラとして他にないものだし、素晴らしい。けれども、これは、一般市民への医療・健康情報サービスとしてはどうなんだろう。

年間50万件ずつ増えていく論文情報を無料で市民に与えているのは素晴らしい。でも、母国語とはいえ、大量の論文を全部読むのは不可能だし、玉石混交の論文群の内容を吟味できる人は少ない。

つまり、生データを渡すだけではなくて、誰かが情報を吟味してまとめた上で提供しないと、基本的には医療情報って意味がないのではないかと思っている。

もちろん、生データでも、ないよりはある方がいいとは思う。そして、公共図書館の医療情報コーナーの本に書かれている情報で、満足する人もいると思う。

医療従事者の世界では、すでにそれらの情報を全部読むことができないことがわかりきっている。量的な意味でも、忙しさを考えても。そこで、吟味した情報をまとめてデータベースにして、UpToDateをはじめとした、何百万円もする高額な商品がたくさん登場している。そして、それらはとてもよく使われている。

しかしそれらの情報は英語で書かれており、基本的には医療従事者向けの内容である。もちろん、公共図書館では、契約しているところはないはずである。

もし公共図書館でそれらのデータベースを提供し、日本語で情報提供できたら、結構役に立つだろう。

公共図書館は無理としても、例えば医科大学の図書館で、一般市民向けのサービスとして、知りたい情報を言語問わず様々なデータベースから検索して、情報を吟味して、内容をまとめて、日本語で提供することができたなら、それはとてもとても役に立つサービスだと思う。

そう、絵空事としては思うけれど、私は、そういったサービスを一般市民以前に、サービス対象である医療従事者に対して、十分にできていない。

だから私がここに書いてるのは、公共図書館の人達を非難しているわけでもなければ、公共図書館の医療・健康情報サービスをどうにかしろと言っているわけでもないのです。

あのニュースを見て私がモヤモヤするのは、自分ができてないことを、つつかれている気がするから。自分の仕事が不十分だということを、思い知ってしまうから。


ずうっと前だけど、故津田良成先生がお話しくださったことを思い出す。

「医学図書館員は、医療従事者のニーズに応えるために、医学を勉強しなければならない。医師のように6年間でひととおり勉強する必要はない。ゆっくり勉強すればいい。」

「医師は忙しすぎて、論文を読むひまがない。だから、図書館員が吟味して、情報をまとめて渡してあげられるようにならないといけない。」

はい、今も、そのとおりだと思ってます、先生。

サブジェクトを勉強することを忘れない。論文を読んで吟味して、まとめて渡せる図書館員になって、そういう人を増やしたい。だから、EBMワークショップをやってたんだということを、思い出した。

年月はすぐに経過してしまう。

コクラン・レビューの勉強会

昨日の勉強会で読んだコクランのシステマティックレビューは、がん患者に対して、抗凝固療法という治療はどれくらい効果があるの?という内容でした。抗凝固療法をすると、血管の中にできる血の塊が溶けてサラサラになる。その一方で、血が止まりにくくなるという怖さがあるようです。この療法によって1年後、2年後の生存率はどうなのか。その他にも、出血のしやすさや、QOLがどうなるのか。このテーマでたくさん研究が行われています。

1つのテーマを決めて、厳密な方法で調査した論文を網羅的に集めて、統計的に結果を統合して結果を見る。これがシステマティックレビュー。

昨日使った文献はこういうものです。
Parenteral anticoagulation in patients with cancer who have no therapeutic or prophylactic indication for anticoagulation
治療・予防に抗凝固療法をしていない癌患者に対する非経口の抗凝固療法
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21491396

コクランレビューの読みかたはだんだんわかってきたんだけど、読んだ後患者さんに対してどう適応するかという部分は、普段の仕事で全く意識してないことなので何度勉強会に参加しても思い至らないところが多くて面白いです。例えば、どこの部位の癌なのか。余命はあとどれくらいなのか。この療法は注射か点滴が毎日必要だから、外来の癌患者さんには厳しいのではないか。この療法を受けるために必要な金額はどれくらいなのかとか。医療従事者の人達の頭の中には、いろんな患者さんのイメージが次々と湧き上がってるみたいなんだけど、私のように家族にも職場にも癌患者さんがいないと想像するしかないのです。今のところ私はかなり健康な人達の間で生活してるんだな、でも今後自分もまわりも変わっていくんだろうな、といつも思います。

最近画期的なことは、同じ職場のスタッフさんが1人、一緒に勉強会に参加してくれるようになったこと。16年も一緒に働いていて。今、彼女に何か波が来ているんだと思います。

すごくありがたい!嬉しい!でも、今までずっと図書館員一人ということが多かったので、こうして一緒に来てくれる人に対しての心構えができていないのです。自分が誰かに手を引いてもらってここへ来たわけではないので、後から来た人に対して放ったらかしてしまうんだけど、何だか気になります。同じグループでディスカッションすべきなのか、一緒に帰るべきなのか(どっちもしてない)。あんまり押し付けがましいのも何だし。今後もこんな感じで。

私の職場においては、今年から医学部5年生に対してEBMの実習を1コマ図書館で協力させてもらうようになったし、お休みの日に一緒に勉強する仲間が一人増えて、何か、新しい扉を開いた!という感じはあります。これからどうしていくか、考えていかないと。

大図研京都ワンディセミナー「若手研究者の文献利用環境を巡る問題と図書館へのニーズ」

今日は大図研ワンディセミナー「若手研究者の文献利用環境を巡る問題と図書館へのニーズ」に参加した。
面白かった。いろんな問題点が明らかになった。

一言でいうと、若手研究者の就職問題と、文献入手が難しい問題についての話。なんだけど、簡単に解決できないいろんな要素がからみ合っていることがわかった。

大学図書館では、非常勤講師や卒業生や、その大学に所属していない研究者に対しては、学内の研究者と同様にサービスをしていない。それは、電子リソースの契約や、限られた予算や、大学の方針や、いろんなことと絡んでいる。そして、サービスできない人達を「公共図書館をご利用下さい」と公共に誘導せざるを得ないことがある。

公共図書館では、どこでも十分な研究者への支援体制ができているとは言えない。そもそも、研究者に向けて資料をそろえてサービスしている大学図書館がすぐそこにあるのに、なぜそれを避けてサービス対象がALLの公共図書館に行かなければならないのか?と研究者としては疑問を抱くみたいだ。

公共図書館大学図書館の文献流通がスムーズに行ってない問題。これはたしかにそう。しかし私のような医学系図書館の人間からすると、公共図書館の資料をほしいと言われることがほとんどないので、こちらから何かを依頼することがほとんどなく、不便さもそんなに感じていなかった(こちら側の融通のきかなさは気付いていたけれど)。ところが、たとえば日本史とか、人文系の大学図書館の人達は、結構公共図書館との資料のやりとりがあるという。これは驚き。若手研究者でも、分野によって、公共図書館でかなり資料を集められるという人と、医学や、西洋史のように、専門的だったり洋書が多かったりして、ほとんど公共図書館の資料は役に立たないという人がいる。

そしてさらに、大学間格差の問題。データベースや資料の構成など、大学の経済状態がダイレクトに反映する部分ではある。どの大学に所属しているかによって、文献入手にかかるお金はずいぶん変わる。

等々・・たくさんの問題点があった。これを放置することによって、日本全体の学術研究が停滞する方向に向かう。図書館だけの問題じゃないんだけど、だからといって放っておいて良いものでもなくて。

講師から「若手研究者は将来教員になる可能性が高いので、若手研究者には早めに恩を売っておけばよいのでは」という発言があった。わかる、わかるけど。

私達にまずできることは、こういった問題があることを覚えておくことだ。意識するだけでも、きっと変わる。そこから始まる。

そうして、何かできるチャンスがあったら、逃さずにつかんでいくといいと思う。抽象的なことしか言えないけど、ほんとにこう思ってます。


Togetterまとめ
http://togetter.com/li/620712

大図研京都ワンディセミナー「「大学と電子書籍」の現状と未来」終了

しばらく何でもFacebookに書いていましたが、誰でも見られるところに書くのと、閉鎖された場所に書くのとは書き方が違うものです。どちらのタイプの記事も書いていきたいので、久々にこちらも更新します。

大図研京都ワンディセミナー「「大学と電子書籍」の現状と未来」が先週土曜日に終わりました。
案内ページ http://www.daitoken.com/kyoto/event/20130921.html

講師は、慶応義塾大学メディアセンターの入江伸さん。入江さんの話し方は独特でとても魅力的なので、気付いたことを書き留めておきます。

実は入江さんは滑舌が良くはなく、時々言葉が聴き取れません。プレゼン資料では小さい字がたくさん入っている読みにくいスライドが登場したりするし、話の中に初心者ではわからないような略語をポンポン挟んでこられるんです。ここだけ聞いたら、どこが魅力的なの?と思われるかもしれません。

でも、話している内容が面白くて、独自の世界に引きこまれます。他の人からは聴けない情報を話してる、他の人では思いつかないことを話してる、と感じたら、人は必死で聞き取りにくい言葉に耳を傾けるし、必死で見えにくい文字にも目を凝らします。3時間もの間、退屈どころかずっと話に引きこまれていました。

話の内容によってあんなに人を惹きつけることができるんだと思ったら、いろいろ反省しました。
それから、全員が完全にわかる内容にすることもないんだなと。わからなかったりうろ覚えの概念がポンポン出てきましたが、それでも、全体の意味が取れたら話を聞き続けることができます。

なかなか真似できないプレゼン方法ですが、月並みなことしかしていなければ、月並みな話しかできないわけで、いろいろと型を破って他ではやっていない経験を重ねていくと、話の中身もだんだんと魅力的になってワクワクした感じも伝えられるのだろうか?と思うと、後に続きたいです!

当日の様子はツイッターで読んでいただけます。
http://togetter.com/li/567311

大図研全国大会で京都支部が発散していたパワーについて*

大学図書館問題研究会全国大会は8月4〜6日で開催され、150人の会場に160人以上の方々をお迎えして盛況でした。どうもありがとうございました。
https://sites.google.com/site/dtk2012kyoto/

あれから1ヶ月経ちました。忙しくしていた皆も、日常に戻っています。

今回、大きな催しを手がけて成功した、という充実感はあるのですが、それ以上に、初めて得た感覚がありました。それは、大図研や各種学会のような、図書館員にとって入会が任意である団体のあり方についてです。

例えば全国大会に伴ってたくさんの業務が発生したりした場合、忙しいとか面倒くさいとかで誰も手を出そうとしないような状況はありがちだし、そもそも大図研なんて入らない、という図書館員は世の中にいくらでもいます。入会する目的は、仕事に役立つ情報、人脈、セミナーなどがありますが、それが払った分のお金と見あっているのかということはそれぞれ考え方が違うでしょう。

大図研京都支部に会費7,000円を支払って会員となり、かつ支部委員となっている人には、ルーティンワーク及び特別ワークのようなことが出てきます。その分プライベートな時間を削っていく。でも、大半の支部委員は、そのことがあとで、削ったプライベートな時間のみならず仕事にも生きてくることが何となくわかっているみたいだなということが伝わってきます。実感するには早い若い人にも。

それにしても大会準備中には解決すべき問題が次から次へと出てきたわけですが、何かとみんな忙しかった中で、協力しあって楽しく問題解決を繰り返すうち、何か京都支部の力強さというか、楽しさやパワーのようなものを発散していたようです。

何度も「京都支部のパワーを感じました」と声をかけていただくなど反応が非常に好意的でありがたく、ツイッターでも、まとめサイトに1,000回以上もアクセスがあるなど非常に盛り上がり、たくさんの企業の方々に参加していただいてレビューや展示ブースを行い参加者の幅も広がりました。分科会はどの会も非常に趣向を凝らしていて、分かれているのが残念なほど。自主企画も人気がありました。

そして、全国大会中から、京都支部への入会希望の方が何人もありました。
やはり、私達が何らかのパワーを発散していて、それが、走り回っている中で、参加していた人たちの考え方に何かの影響を与えたように思います。

先日本で読んだ、選択理論の「上質世界」という概念を思い出しました。私もこの理論をまだよくわかっていないのですが、簡単に言うと「上質世界」とは、私達一人ひとりの欲求を満たす理想のことで、
1)一緒にいたい人
2)所有したいもの、経験したいこと
3)信条、行動を支配する考え方
などのことです。

「上質世界」は、人によっても違いますし、同じ人の中でも日々書き換えられます。

私は今回の反応を見て、今まではこういった上質世界になかなか踏み込めなかった大図研が、今回何人かの人たちの上質世界に取り入れられたのではないかと感じました。

つまり、大図研が、より「参加したい」「経験したい」と思われるような対象として、少なくとも一部の人たちには認知されたということです。会費も変わらず7000円だし、メンバーだって変わっていない。そういうこととは別に、無意識にブランディング力を高め、「この人達と一緒に何かしたくなるような団体」になるような状況を作っていたのかなと。

私はそこに、とても大切な、何かの輪郭が見えたような気がしました。
もっと具体化できればいいのですが、掘り下げられていません。
でも、会費の上げ下げとかではなく、これを大切にしていけばいいんじゃないかと感じています。

ここでは、感じたことを忘れないように書き留めておきます。

大図研全国大会第10分科会(研究支援・文献管理ツール)の紹介

大学図書館問題研究会の全国大会は、8月4日(土)〜6日(月)に
開かれるのですが、2日目は、分科会が主体となったプログラムです。


分科会、というのは、大学図書館員が興味を持ちそうなトピックを選び(今回は12トピック)、それぞれの担当者がそのトピックに関して興味を持った人達と意見交換をしたり、進んだ事例を持つ図書館の人に発表してもらったりして大いにそのトピックについての理解を深めることができる、という会です。

私は第10分科会(研究支援、文献管理ツール)の担当です。
文献管理ツールというのは、研究者が論文を書いたり研究をしたりすることを助けてくれるツールです。

論文を書く前には、研究者はたくさんの論文を読むのが一般的です。論文のコピーの山。一体何をどれだけ読んだのか?そして、自分が論文を書く時にはどの部分でどれを引用したかを明示しなければならないし、最後にリストとして付ける必要があります。それを、過去にはみんなノートに書いたり書き留めて管理していたのでしょう。しかし、今はそれを管理してくれる電子的なツールがあるのです。代表的なツールとして、EndNote, RefWorks, Mendeleyなどがあります。

こういったツールのひとつひとつがどんな特徴を持つか、というようなことは、研究者をサポートする大学図書館員ならば、知っておきたい情報です。今回はさらに、こういったツールをサービスに取り入れていたり、先進的な取り組みをしている図書館からゲストをお招きしています。近年破竹の勢いで広がるMendeleyは、これが無料かと目を疑う素晴らしいインターフェースで私たちを迎えてくれますが、そのMendeleyのAdvisorという二人の方もお迎えします。そしてまた、図書館員の経験を持ちながら、現在は大学の研究支援の部署に勤務されているという方もお迎えします。
これだけのメンバーがそろえば面白くならないわけがない、と思っているわけです。が、私はこのテーマにとても興味がありますが、このテーマにとても詳しいとまでは行かないので、この講師陣が楽しく話ができるように勉強しておかねばと思います。

今年は、午前に6分科会、午後に6分科会と盛りだくさんです。どれにするか迷ってしまってまだ申し込んでいない〜、という方、ぜひ、午後は第10分科会へいらしてください!。Welcome!

ダイトケン全国大会 in 京都 そして、早朝企画*

ダイトケン(大学図書館問題研究会)の全国大会というのを今年は京都・嵐山でやります。
日程は、8月4日(土)〜6日(月)。
大学図書館のライブラリアンが集まって、研究発表をしたり、意見交換をしたりします。
大学図書館員が興味を持つあらゆる話題についての分科会があります。

ホームページはこちら。
https://sites.google.com/site/dtk2012kyoto/

毎年開催地は違うのですが、今年は京都でするので、京都支部の私たちが中心になって動いています。これが、大変なこともいろいろあるんだけど、時々どうしよう・・・と追いつめられたりもするんだけど、やっぱり楽しい!

どうやったら京都に来る皆さんが楽しく面白く過ごしてくださるか。
記念講演で誰の話を聴きたいか考えたり、京都支部ならではの分科会を考えたり、大学図書館を取り巻く各種企業の皆さんも参加してもらって、財政難の予算面をサポートしていただく手立てを考えたり、せっかく京都に来られるのだからと、朝ごはん企画や見学会などの自主企画を考えたり。

・・・というのを一人でやっていたら、楽しいよりも「大変」が多かったことと思いますが、京都には、仕事が超忙しい中でも一肌脱いでくれる人達がたくさんいて、とても頼もしいです。みんな、ありがとう!あんまり直接言えてないけど感謝してる!Love!

初めてのことなので心配な面もありますが、よかったらぜひ、8月のアツい京都にいらしてください!

記念講演以外にも、分科会やシンポジウムなど、どれも渾身の素晴らしい内容になっているので、これはこれで1つずつ紹介したいくらいなのですが、今日は全国大会のホームページ紹介にとどめます。

そうそう、私のご案内する自主企画2件をご案内。どちらも早朝です。
誰よりも早起きが苦手な私がなぜに、と自分でも思うのですが、自分が起きるためもありますが、早起きができて朝を充実して過ごせた時の気分は、何物にも代えがたいです。
これを、京都に来られた皆さんと共有したい!ぜひ一緒に参りましょう。

ダイトケン京都自主企画:京都のアーキビストと嵯峨野を歩く
8月5日(日)7:30〜 朝食を済ませてから大会会場に集合
※嵯峨野に宿泊している方におすすめ!

ダイトケン京都自主企画:イノダコーヒでモーニング
8月6日(月)7:00〜 地下鉄烏丸御池駅に集合
※三条、四条、烏丸線周辺に宿泊している方におすすめ!

どちらの企画も10名限定です(そんなに早起きしたい人が多いとも思えないが)。
全国大会の参加申し込みを済ませてから、お申込みください。